競馬場レースイメージ
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出走馬の様子
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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    戦況が悪化する中果たした
    史上初の快挙

    秋は阪神優駿牝馬(現オークス)で10馬身差勝利すると、京都農商省賞典4歳呼馬(現菊花賞)は大差勝ち(写真)。 これは今なおレース史上最大の着差。その後、連勝を11まで伸ばし、繁殖牝馬となった©JRA

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     7月29日、キスカ島から日本軍が撤退。8月から9月にかけて、上野動物園では都長官の命令で、クマやライオン、ヒョウ、ゾウなど、空襲を受けたときに危険とされる動物が殺処分された。

     そうした状況下で、前田とクリフジは京都競馬場に滞在する。彼らが参戦したのは阪神競馬の秋季開催だった。が、阪神競馬場は海軍に引きわたされていたため、この開催は京都競馬場で行われた。

     前田が付きっ切りで調教したクリフジは、9月25日、対古馬初戦となった古呼馬を3馬身差で完勝。次走、10月3日、京都芝2400㍍で行われたオークス(当時は阪神優駿牝馬)では、2着に10馬身差をつけて逃げ切った。

     クリフジは、つづく2戦の古呼馬も10馬身差で圧勝し、11月14日、京都芝3000㍍の菊花賞(当時は京都農商省賞典4歳呼馬)に臨んだ。道中は3番手につけて3コーナーから進出。ラスト600㍍地点で先頭に立ち、2着に大差をつけて優勝。史上初の「変則三冠馬」となった。

     太平洋戦争の戦況はさらに悪化し、秋季中山開催終了後の12月17日、東条英機内閣はついに競馬開催の一時停止を閣議決定した。

     かくして翌1944年、東京競馬場および修錬場(のちの馬事公苑)と京都競馬場で、観客もなく、馬券も売られない春秋2回の能力検定競走が行われることになった。

     クリフジは春季東京能力検定競走で3戦する。年明け初戦は4月23日の呼馬駈歩5歳第二級。ここを5馬身差で勝つ。翌週、4月30日の呼馬駈歩5歳第一級を10馬身差、5月7日の横浜記念を6馬身差で圧勝。通算成績を11戦11勝とした。11戦すべてが力の違いを見せつけての完勝だった。最強の女傑として、その名を競馬史に刻みつけた。

     横浜記念を勝ったあと、5月28日に京都競馬場で行われる天皇賞(当時は帝室御賞典)に出走する予定だったのだが、汽車輸送の途中で風邪をひき、現地到着後に発熱。不出走に終わり、結局、横浜記念が引退レースとなった。

     クリフジは、買い戻し条件がついていたため、引退後、故郷の下総御料牧場に帰った。名前が「年藤」に戻り、1945(昭和20)年4月、小岩井農場でシアンモアを配合したあと、戦火を逃れて北海道の日高種畜牧場に移動。戦後の1949年7月、下総御料牧場に戻ってきた。繁殖牝馬として、クモハタ記念を勝ったイチジヨウ、1954年の桜花賞とオークスを勝ったヤマイチ、金杯を勝ち、天皇賞で2着になったホマレモンなどの重賞勝ち馬を送り出した。イチジヨウの仔で、クリフジの孫にあたるシモフサホマレは、1964年の安田記念を勝っている。

     1959年、千葉県香取郡小見川町の菅谷長太郎に11万1000円という安値で買い受けられ、最後の産駒スガヤホマレを産み、1964年、旧25歳で生涯を終えた。

     その血は今もつながれている。1994年のきさらぎ賞を勝ったサムソンビッグ、2008年春に岩手三冠競走の阿久利黒賞を勝ったリュウノツバサ、2011年の兵庫ダービーを無敗で制したオオエライジン、その妹で、同年のNAR(地方競馬全国協会)グランプリ2歳最優秀牝馬となったエンジェルツイートもクリフジの血を引いている。

    クリフジ KURIFUJI

    1940年3月12日生 牝 栗毛

    トウルヌソル
    賢藤(父チヤペルブラムプトン)
    馬主
    栗林友二氏
    調教師
    尾形藤吉(東京)
    生産牧場
    下総御料牧場
    通算成績
    11戦11勝
    総収得賞金
    7万3200円
    主な勝ち鞍
    43京都農商省賞典4歳呼馬(菊花賞)/43阪神優駿牝馬(オークス)/43東京優駿競走(日本ダービー)
    表彰歴等
    84年顕彰馬に選出
    JRA賞受賞歴

    2020年9月号

    島田 明宏 AKIHIRO SHIMADA

    1964年生まれ、北海道出身。早稲田大学政治経済学部政治学科中退。大学在学中より放送作家として活動。同時期にライターでの活動も始め、「Number」「競馬の達人」などで競馬の原稿を手掛ける。2011年、「消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡」でJRA賞馬事文化賞を受賞。

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