競馬場レースイメージ
競馬場イメージ
出走馬の様子
馬の横顔イメージ

read 最新号の立ち読み

イクイノックス  自らの走りで真価を証明
古馬を相手にGⅠを2連勝
イクイノックス
自らの走りで真価を証明

勝木 淳 Atsushi Katsuki

    春二冠はともに2着と苦杯をなめたイクイノックス。
    古馬に挑んだ秋は天皇賞、有馬記念と連勝し、頂点の座を射止めた。

     2022年は1番人気馬にとって受難の年だった。21年ホープフルSから22年菊花賞まで16連敗。これを止めたのがイクイノックスだ。天皇賞(秋)で平地GⅠの1番人気連敗記録を断ち、堂々主役として有馬記念まで連勝。昨年を代表する存在になった。

     春二冠を勝てなかったイクイノックスが天皇賞(秋)でGⅠ馬を抑え、1番人気に支持された。これは3歳馬が強いというデータだけが根拠ではない。東京スポーツ杯2歳S以来、ぶっつけで挑んだ皐月賞2着、日本ダービーでは勝ったドウデュースをしのぐ上がり3ハロンを記録、最後まで追い詰めた。天皇賞(秋)1番人気は誰しもがイクイノックスの走りに可能性を感じたからにほかならない。たとえ古馬の一線級が相手であっても勝負になる。実績よりもその可能性にかける。イクイノックスは底知れないスケールを感じさせる存在だった。

     体ができていない状態でタフな競馬を勝ち抜いた2歳時から、管理する木村哲也調教師もその秘める可能性を確信していた。しかし、春は最高の結果までは出せなかった。可能性を感じるだけで終わらせたくない。秋は厩舎一丸であらゆる調教プランを模索した。調教で体が寂しくなってしまうため手探りだった春の反省を活かし、イクイノックスとの関係により踏み込んだ。調教で負荷をかけず、人間との信頼関係を築くことに注力した。スタートで遅れた日本ダービーが頭にあったからだ。レース直前の緊迫した状況にあっても、騎乗者の指示に素直にならなければ、本番で力をすべて発揮できない。そうなれば、また可能性を感じるだけで終わってしまう。イクイノックスが結果を出すために欠かせない課題はここにあった。その取り組みが実を結び、春よりさらに騎乗者の指示に従順になってきた。それが天皇賞(秋)の10日前のことだったと木村調教師は振り返る。

     前半1000㍍通過57秒4。パンサラッサが刻むハイラップは古馬中距離王者を決める戦いにふさわしく、いや、見る側の想像を超えるものだった。向正面から3、4コーナーにかけて後ろを引き離すパンサラッサと中団を追走するイクイノックスはまるで別々の世界を走っているかのようだった。

     残り400㍍地点でその差は10馬身以上。「また2着か」。木村調教師の脳裏に春の光景が浮かぶ。全力でイクイノックスと向き合いながらも、可能性にかけるファンの期待に応えられなかった無念が頭をもたげる。しかし、イクイノックスは驚異の末脚で逃げ込むパンサラッサをゴール前で交わし、自身の可能性を証明してみせた。上がり3Fは32秒7。2歳時からだれもが感じていたポテンシャルが全開になったあの日、東京競馬場は揺れた。

     GⅠの1番人気連敗記録は止まった。主役たる馬の勝利がこれほど難しく、同時に安堵感を与えることを知った。

    重賞勝利はすべて1番人気。主役で勝つことを宿命づけられた馬であることは事実だ。

    不安要素を吹き飛ばした有馬記念
    父ができなかった世界挑戦も

     つづく有馬記念はこれまでのGⅠの1番人気とは意味合いがちがった。可能性を見込んだ期待ではなく、すでに天皇賞(秋)で力を証明したイクイノックスへの確信があった上でのものだった。一方で中7週はイクイノックスとしては詰まった間隔であり、中山芝2500㍍は未経験。クリアすべき課題がないわけではなかった。

     だが、過去の名馬が物語るように真の主役は重箱の隅をつつくような不安要素を吹き飛ばす。中団追走から最終コーナーに向けてじわりと前との差を詰め、後ろのボルドグフーシュがまくって接近しても慌てなかった。最後の直線まで引きつけ、坂下で満を持してラストスパート。極上の切れ味で一気に突き放して勝負を決めた。木村調教師も「エネルギー満タンのレース運びで頼もしく見えました」と競馬を振り返った。改めてイクイノックスはどんな馬かという問いには「本当は簡単ではないのに、簡単に勝ってしまう馬」と答え、さらに「厩舎に来たときから、フットワークが素晴らしかったです。そういった馬はいますが、どうしても途中で崩れてしまうことがあります。しかしイクイノックスのフォームはずっと変わりません」と語った。3歳後半の成長力を評されることが多いが、取材で成長について問うと、木村調教師はいつも答えに窮していた。それは最初から卓越した能力の持ち主だったからだ。昨秋はやっとそれを本番で証明できたシーズンであり、「期待に応えられてほっとした」という言葉にこもった実感は印象深かった。

     キャリア6戦で、東京のハイペース、中山のゆったりした流れと、問われる適性が異なるGⅠを連勝したイクイノックスにはやはり底知れなさを感じざるを得ない。どこまで強くなるのか。自然とそんな質問が出たが、「すでに強いので、これ以上がんばれとは言えません。もし底なしだったら、私の身がもちません」と笑いを誘った。

     一方で、今年について、木村調教師は以前から世界基準の馬づくりを目指している以上、イクイノックスを世界のホースマンに見せたいという新たな目標も口にした。

     イクイノックスの成績を改めて見返すと、重賞3勝すべて1番人気での勝利であることに気づく。2着に敗れた春二冠は3、2番人気。馬が人気を頭に入れているわけはないが、主役で勝つことを宿命づけられた馬であることは事実だ。だから、イクイノックスがGⅠの1番人気連敗記録を止めたことに合点がいく。

     思えば、父キタサンブラックも舞台を選ばない真の主役だった。父に続き息子も年度代表馬となったのは、シンボリルドルフとトウカイテイオー以来のこと。天皇賞(秋)、有馬記念制覇は17年のキタサンブラックと同じだ。あれからわずか5年で後継馬を出したした種牡馬キタサンブラックの高いポテンシャルも底知れないものがある。そして、イクイノックスには今年、父ができなかった世界進出を果たし、世界の主役になることを期待したい。

    new 最新号発売中