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ドゥレッツァ 遅れてきた超大物
Playback THE Grade Ⅰ第84回菊花賞 ドゥレッツァ Durezza遅れてきた超大物

軍土門隼夫 Hayao Gundomon

    3年ぶりに京都競馬場に戻ってきた菊花賞。23年ぶりに皐月賞馬とダービー馬が揃って参戦したが、両馬の前に立ちはだかったのは上がり馬ドゥレッツァだった。

    「二強」による名勝負の予感も
    上がり馬が驚きの走りを披露

     乾いた空気と、青い空。低い角度からスタンドを照らす陽射しで、ちょうど4コーナーから直線の攻防が逆光になっている。眩しそうに手庇を作ったり、持っている新聞をかざしたりしながら声援を送る観客たち。そんな光景が、3年ぶりに京都に秋競馬が帰ってきたことをあらためて実感させる。
     前週は、競馬ファンの視線を一身に集めた断然人気のヒロインが、期待通りの圧勝で牝馬三冠を達成した。
     そんな秋華賞から一転、2023年菊花賞は5番人気までが単勝オッズ10倍以内と、上位馬の評価は拮抗していた。中でもその対決の行方が注目されていたのが、1番人気ソールオリエンスと2番人気タスティエーラだった。
     皐月賞馬か、ダービー馬か。
     荒削りで豪快な末脚か、センス溢れる走りで馬群を抜け出すスタイルか。
     同世代で鎬を削ったキタサンブラックの産駒か、サトノクラウンの産駒か。
     前哨戦を叩いた馬か、それとも春以来の実戦で臨む馬か。
     はたしてこの第3ラウンドでは、どちらの方が上なのか。文字通り、甲乙つけがたい2頭の対決は、しかし恐るべき上がり馬の台頭によって、興奮すべき結末を迎えることとなった。
     前週を上回る4万6757人の観衆がまず沸いたのは、ゲートが開いた直後だった。トップナイフが出遅れ、大きく離れた最後方まで下がったのだ。
     レース後、膝蓋(しつがい※膝の皿)が外れるという珍しいアクシデントでゲートを出られなかったものの、動き出してすぐに嵌ったのでレースには参加できたことが判明したトップナイフ。先行力と操縦性の高さを武器としている同馬の出遅れにより、どよめきの中でスタートしたレースには、しかしこのあと、さらなる意外な展開が待っていた。
     手綱を動かして先頭に立ったのは、プリンシパルSなど全3勝が逃げ切りのパクスオトマニカだった。これに続いたのが2勝クラスの阿賀野川特別を逃げ切ってきたリビアングラス。2頭の先行策は大方の予想通りだったが、そこからレースは思わぬ方向へ動く。外から1頭、上昇した馬が瞬く間に前の2頭に追いつき、1周目3コーナーの坂の下りで先頭を奪ってしまったのだ。大外17番、4番人気のドゥレッツァだった。
     2歳秋のデビュー戦は3着に敗れたドゥレッツァだったが、その後は未勝利戦から条件戦を4連勝中。その4戦の上がり3ハロンのタイムはすべて出走馬中1位で、前走も3勝クラスの日本海Sを豪快な差し切り勝ちと、まさに底を見せないまま破竹の快進撃中だった。
     驚くべきことに、ドゥレッツァはここまで逃げてレースを進めたことが一度もなかった。重賞初出走の大舞台でいきなり仕掛けた奇襲について、C.ルメール騎手はレース後の会見で「1周目は静かな騎乗をしようと思っていました」と明かした。
    「でも馬がとても元気で、すぐに前に行ったので、逃げた方がいいと思ってハナを切る判断をしました」
     管理する尾関知人調教師も、この逃げを「驚きました」と振り返った。
    「レース前にルメール騎手から、静かな感じの競馬か、アグレッシブな競馬かを聞かれて、任せると答えました。静かな方の雰囲気だったんですが、蓋を開けたらアグレッシブな競馬で。レース後にルメール騎手から、びっくりさせてごめんなさいと言われました」
     1周目スタンド前、ドゥレッツァが軽快に逃げる。パクスオトマニカが続き、離れてリビアングラス。ダービー3着のハーツコンチェルトや、神戸新聞杯で逃げて3着に粘ったファントムシーフらが好位の一角を占めている。
     タスティエーラは、ちょうど中団に位置していた。それを見るように、すぐ後方の外にソールオリエンスがいた。
     いつでも仕掛けられる態勢のタスティエーラ。それをいつでも追撃できる位置にソールオリエンス。「二強」による名勝負への予感に、スタンドから大歓声が上がる。神戸新聞杯を制し3番人気に推されているサトノグランツも、ソールオリエンスのすぐ側にいた。
     2コーナーから向正面、パクスオトマニカが離れた外から再び上昇し、先頭を奪った。リビアングラスもこれを追って前へ。出入りの激しい攻防をいったん控えてやり過ごしたドゥレッツァは、3コーナーからまた前との差を詰めていき、2番手で直線を向いた。
     後方では、タスティエーラとソールオリエンスが火の出るような熱さで競り合いながら上昇していた。並んだ2頭は、4コーナーでタスティエーラが内、ソールオリエンスが外と進路を違えて直線へ。馬場の真ん中から馬群を抜け出すタスティエーラ。大外から差を詰めるソールオリエンス。皐月賞はソールオリエンスが差し切った。ダービーではタスティエーラが凌いだ。3度目の対決を制したのは、またもタスティエーラだった。が、しかし。
     そのはるか3馬身半前では、ルメール騎手の力強いガッツポーズとともに、ドゥレッツァが圧勝のゴールを駆け抜けていたのだった。
     逃げた馬が、道中でいったん先頭を譲ったとはいえ、最後は差し馬のような末脚で突き放すなど、そうある勝ち方ではない。上がり3ハロンのタイムは、またも出走馬中1位。そんな管理馬の恐るべき走りに、尾関調教師も「嬉しいのと、凄い馬だという驚きがあります」と感嘆の気持ちを隠さなかった。

     
    重賞初出走での勝利は
    メジロマックイーン以来

     タスティエーラのJ.モレイラ騎手は、「直線も手応えが良く、前の馬を捕まえられるかと思いましたが、勝った馬が強かったです」と脱帽のコメントを残した。
     ソールオリエンスの横山武史騎手も「やりたかった競馬はできました」とその口調に悔いはなく、「勝負所ではタスティエーラを封じ込めながら進められました。最後の4コーナーも勝つ勢いで回ってきましたが、爆発力が無かったのは、距離が若干、長かったのかもしれません」と振り返った。
     三冠の中でも「上がり馬」という考え方は菊花賞に特有のものだ。グレード制導入後、前走が条件戦の馬が勝ったのは09年のスリーロールス以来、14年ぶり5頭目。重賞初出走での勝利はメジロデュレンとメジロマックイーンの兄弟以来、33年ぶり3頭目となる。
     皐月賞馬とダービー馬の争いをまとめて凌駕した、歴史的上がり馬。その父が、奇しくもキタサンブラック、サトノクラウンと同じ世代の二冠馬ドゥラメンテだったことも含め、間違いなく後世にまで語り継がれる熱い決着となった23年クラシック。栄冠を分け合った3頭による第二章は、はたしてどんな戦いとなっていくのだろうか。

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