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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    新たな戦いを乗り越え
    感動的な復活劇

    2008年 ジャパンCダート ● 優勝 2年4カ月の休養を挟んでの復帰2戦目。クリストフ・ルメール騎手を背に、好位から馬群を抜け出し、劇的な復活を遂げた©Y.Kunihiro

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     ここまでカネヒキリは幾度かの敗戦はあったものの、日本のダートでは紛うことなきチャンピオンといえる実績。3歳時にはJRA賞・最優秀ダートホースにも選出されている。

     しかしカネヒキリの新たな戦いは、ここからだった。ライバルとの戦いではなく、自身の脚元との戦いだ。

     秋を目指しての調整過程で右前浅屈腱炎を発症。手術して再起を図り、ようやく復帰のメドがたった翌年5歳夏、同じ箇所に屈腱炎が再発した。そして2度目の手術。休養は2年4カ月に及び、ようやく復帰がかなったのは6歳11月の武蔵野Sだった。2番人気に支持されたものの見せ場なく9着。さすがに強いカネヒキリの復活は無理かに思われた。

     そして臨んだのがジャパンCダート。この年から舞台が阪神1800㍍に変わり、長い休養の間に台頭したダートの強豪が顔を揃えた。1番人気に支持された同じ6歳のヴァーミリアンは、ドバイ遠征を挟んで国内のダートGIを6連勝中。ジャパンダートダービー(大井)を制した3歳のサクセスブロッケンは、直前のJBCクラシック(園田)でヴァーミリアンにクビ差2着と善戦。同じく3歳のカジノドライヴはアメリカでG2を含む2勝を挙げ、ブリーダーズCクラシック(12着)からの帰国初戦。カネヒキリはこの3頭に次ぐ4番人気。ダートの本場アメリカからも3頭の遠征があった(うち1頭は出走取消)。

     初めてC・ルメール騎手が鞍上となったカネヒキリは、4コーナーでラチ沿いをうまく立ち回り、残り200㍍を切って先頭に立つと、ゴール前迫ったメイショウトウコン、ヴァーミリアンをアタマ、クビ差でしりぞけた。4歳時のフェブラリーS以来、じつに2年10カ月ぶりの勝利だった。

     さらに年末の東京大賞典ではヴァーミリアンとの一騎打ちをクビ差で制し、年明け7歳での川崎記念は逃げて直線でも粘っていたフリオーソを半馬身差でしりぞけた。

     ジャパンCダートの勝利はただただ感動だったが、GI3連勝を果たすに至って、復活は確信となった。ここまでGI通算7勝は、ディープインパクトなどと並ぶ国内のGI最多勝タイ記録(当時)。GI馬が2年4カ月もの休養ののち、再びGIを連勝するなどありえなかったこと。

    “不治の病”と言われた屈腱炎が“不治”ではなくなったのか。『優駿』09年4・5月号では『屈腱炎治療の最前線(前・後編)』として計8ページもの特集が組まれるほど、カネヒキリの屈腱炎からの復活は注目され、話題になった。ステムセル治療と言われる幹細胞移植で、競走馬総合研究所と社台ホースクリニックの共同研究による治療方法だった。

     ただその治療も万能というわけではない。社台ホースクリニックの田上正明獣医の話として「確かにカネヒキリの治療は成功だったと言えるでしょうが、(中略)カネヒキリの場合、リハビリがうまくいったからという面もあるでしょうし、休養中の栄養管理、体調管理も見逃せない要素になります。それらのことがすべて噛みあってはじめて、治療の成功につながるのです」と締め括られていた。

     ジャパンCダートのあと角居勝彦調教師は「二度の手術の間、何度も引退が頭をよぎった」と語っている。

     当時最先端の研究・治療に加え、復帰をあきらめなかったオーナーと調教師、厩舎スタッフのケアがあってこその完全復活だった。

    怪我から復帰後、完全復活を印象付けるGI(JpnI)3連勝を飾る。 幾度も苦境に立たされながら、砂上に戻ることを諦めなかった©K.Yamamoto

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