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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    壮絶な戦いの果てに
    残した記録と記憶

     その後、カネヒキリはまたも試練に見舞われる。

     続くフェブラリーSは3着だったが、レコード決着のサクセスブロッケン、カジノドライヴにクビ+アタマ差という接戦だった。

     そして5月、雨の船橋・かしわ記念。このときは直線で先頭に立ったエスポワールシチーをゴール前で追い詰めたものの3/4馬身届かず2着。しかしゴール入線後、鞍上の内田博幸騎手が下馬。カネヒキリは厩務員に引かれて戻ってきた。その後の検査で左第3指骨骨折が判明した。

     またも1年以上のブランクを経て、8歳になった帝王賞で復帰。フリオーソの2着に敗れたが、骨折休養明けとしては上々の結果。中2週足らずで出走した盛岡・マーキュリーCでは、格下相手とはいえ、楽々と2着に5馬身差をつける圧勝。2度目の完全復活を思わせた。

     しかし続く門別・ブリーダーズゴールドCでは、直線で前を行く4頭をとらえて先頭に立ちかけたところ、シルクメビウスに並ぶまもなく交わされ4馬身もの差をつけられ2着。にわかには信じ難い光景だった。

     その後、秋に向けて調整される過程で、以前とは逆の左前脚に屈腱炎を発症。右前脚も以前手術したのとは違う場所を痛めており、ついに引退。凄絶な現役生活だった。

     GI勝利は国内タイ記録の7勝まで。のちにその記録を同期のヴァーミリアンが9勝にまで伸ばすことになるが、ヴァーミリアンとは5度の対戦で一度も先着を許さなかった。

     種牡馬となったカネヒキリは6シーズンで472頭の産駒を残し、その多くがダートで活躍。19年にはミツバが川崎記念で父仔制覇を果たし、種牡馬カネヒキリに初めてGIタイトルをもたらした。しかしカネヒキリは16年5月に種付け中の事故で死亡しており、ミツバの親孝行はその後のことだった。

    8歳まで現役を続け、7つのビッグタイトルを獲得。また、同期のヴァーミリアン(右)には一度も先着を許さなかった(写真は2008年東京大賞典)©H.Watanabe

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    ©K.Yamamoto

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    カネヒキリ KANE HEKILI

    2002年2月26日生 牡 栗毛

    フジキセキ
    ライフアウトゼア(父Deputy Minister)
    馬主
    金子真人氏→金子真人ホールディングス㈱
    調教師
    角居勝彦(栗東)
    生産牧場
    ノーザンファーム
    通算成績
    23戦12勝(うち地方9戦5勝、海外1戦0勝)
    総収得賞金
    8億5161万6700円(うち地方3億4000万円、海外3532万5700円)
    主な勝ち鞍
    09川崎記念(JpnI)/08・05ジャパンCダート(GI)/08東京大賞典(JpnI)/06フェブラリーS(GI)/ 05ダービーグランプリ(GI)/05ジャパンダートダービー(GI)/10マーキュリーC(JpnⅢ)/05ユニコーンS(GⅢ)
    表彰歴等
    08NARグランプリダートグレード競走特別賞馬/05NARグランプリダートグレード競走最優秀馬
    JRA賞受賞歴
    08・05JRA賞最優秀ダートホース

    2020年8月号

    斎藤修 OSAMU SAITO

    1964年生まれ。地方競馬雑誌「ハロン」元編集長。現在は「ウェブハロン」で執筆のほか、ドバイワールドC、ブリーダーズC、香港など国際競走にも足を運ぶ。「優駿」「競馬ブック」などで地方競馬を中心に執筆。グリーンチャンネルでも解説として活躍している。著書に「地方競馬の黄金時代 廃競馬場に消えた伝説の名馬たち」(共著)。

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