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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    不向きなスプリント戦で披露した
    歴史に残る驚異的なパフォーマンス

    ©H.Watanabe

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     日本へ連れてくる前から、あるいは生まれ落ちた時点から分かっていたことではあったが、クラシック競走に出走できない外国産馬ヒシアマゾンの3歳春は、GⅡのニュージーランドトロフィー4歳S(現・ニュージーランドトロフィー)という一応の目標はあるものの、そこへ至るまでのステップレース選択は必ずしもGⅠ馬にはふさわしくない、根拠の曖昧なものとなった。

     そんな状況のなか、3歳の初戦としたのは芝1600㍍の京成杯。牡馬相手に単勝1・8倍の1番人気に推されたが、直線でほぼ同じ位置から追い出されたビコーペガサスに遅れて2馬身差の2着に敗れてしまう。それでも次走に選んだ牝馬どうしのクイーンCへ行くと、年末のGⅠ戦をぶっちぎった力はやはり違っていた。中団から内をすくって伸びてきたエイシンバーモントに迫られはしたが、それをクビ差で下して優勝。単勝1・4倍の圧倒的な人気に応えた。

     前年の9月から6戦、使いづめできたこともあり、ここでひと息入れたヒシアマゾンだが、陣営は春の目標である6月のニュージーランドトロフィー4歳Sの前に一度、レースを使っておきたかった。そこで選ばれたのは、何とスプリント重賞のクリスタルCだった。明らかに彼女には不向きなレースでありながら、ヒシアマゾンはここで歴史に残る驚異的なパフォーマンスを披露する。

     逃げた快速馬タイキウルフが刻んだラップは3ハロン33秒3というスピードで、ヒシアマゾンは鞍上に気合を付けられながらも中団を追走するのがやっとの状態。直線へ向いても先頭との差はまだ6~7馬身はあった。ところがいったんエンジンに点火したヒシアマゾンの追い込みは誰もが目を疑うほどに凄まじかった。残り100㍍でもまだ数馬身あった差をあっという間に詰めると、逃げ込もうとするタイキウルフを一気に交わし去ってゴール。逆に1馬身の差を付けていたのである。ある者はそれを「鬼脚」と形容し、またある者は「瞬間移動」とさえ表現した。

     不向きなスプリント戦さえも制したヒシアマゾンの前にもう敵はいなかった。続くニュージーランドトロフィー4歳Sを難なく制して春シーズンを締めくくると、秋もクイーンS、ローズSを快勝して、待ちに待ったGⅠレース、秋の3歳女王決定戦だったエリザベス女王杯に臨む。

     これも史上まれに見る激闘となった。

     オークス馬チョウカイキャロルが中団を進むなか、ヒシアマゾンは後方を進み、徐々に位置を押し上げる。馬群が4コーナーを回ると先に仕掛けたアグネスパレードが抜け出し、それをチョウカイキャロルが追うと、さらにヒシアマゾンがその2頭に襲い掛かった。ゴールまで1ハロンを切ったところで3頭が馬体を並べての壮絶な競り合いとなり、アグネスパレードは脱落したものの、チョウカイキャロルとヒシアマゾンは鼻先を並べるようにしてゴール。長い長い写真判定の結果、ハナ差でヒシアマゾンが先着していたが、その差は推定で数㌢だったと言われる。前年の2歳女王と当年の樫の女王による息詰まる死闘にファンは心から酔いしれた。

     名実ともに3歳の女王となったヒシアマゾンは勇躍、有馬記念へ駒を進めた。そこには、一冠ごとに着差を広げながら三冠制覇を達成したナリタブライアンが待ち受けていたが、彼女は若き王者に真っ向勝負を挑んだ。余裕綽々に先頭で最終コーナーを回るナリタブライアンにただ1頭、並びかけていったのだ。結果、王者には突き放されて2着に甘んじたが、ヒシアマゾンの2馬身半も後ろの3着には天皇賞馬ライスシャワーがいた。

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