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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    2分23秒3のダービーレコードで
    「変則二冠」制覇を達成する

    NHKマイルCでは直線で末脚を伸ばし、前年の朝日杯フューチュリティSの1、2着馬に5馬身以上の差をつけて快勝した©Photostud

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     キングカメハメハの「変則二冠」制覇に向けて、次走に選んだのは2月29日、阪神芝2200㍍のすみれSだった。そこを新馬戦以来の騎乗となった安藤騎手の手綱で2馬身半差の快勝。

     つづく、3月27日、阪神芝2000㍍の毎日杯は、福永祐一騎手を背に、これも同じく2馬身半差で楽勝する。この勝利により、賞金面で、希望どおりのローテーションを歩めるようになった。

     次は本番のNHKマイルC。

     タニノギムレットは年明け初戦のシンザン記念、アーリントンC、スプリングSを連勝し、皐月賞とNHKマイルCは3着、日本ダービー優勝というローテだった。一方のクロフネは、年明け初戦の毎日杯を勝ってNHKマイルCに直行し、ここも優勝。次走の日本ダービーで5着となった。

     安藤騎手は、NHKマイルCの少し前から、キングカメハメハの調教での動きが以前よりずっとよくなったことを感じていた。

     しかし、ストライドが大きかったので、マイル向きではなく、もっと距離の長いところで本領を発揮するタイプだと思っていたという。

     第9回NHKマイルCで、キングカメハメハは単勝3・6倍の1番人気に支持された。

     メイショウボーラーがハナを切り、それをタイキバカラがかわして行く。前半4ハロン45秒6という速い流れのなか、キングカメハメハは中団の外目を追走した。

     3、4コーナーでは持ったまま。

     直線で外に持ち出されると存分にストライドを伸ばし、最後は流すようにして2着を5馬身突き放してゴールした。

     勝ちタイムの1分32秒5はレースレコード。ラスト300㍍を過ぎたところで手前を左に戻し、最後の10完歩ほどはまた右手前で走っていた。苦しくて手前を替えたわけではなく、余力があったから何度も替えたのだろう。

     向いているわけではないマイルで楽に後ろをちぎってしまった。この勝利によって、安藤騎手は、「夢を見たというより、ダービーは絶対に勝つと確信した」という。

     どんなレースをしても負けないと思った。だからこそ、当日、競馬場に家族を呼んだ。

     04年5月30日の第71回日本ダービーで、キングカメハメハは単勝2・6倍の1番人気に支持された。2番人気は、ホッカイドウ競馬に所属していたコスモバルクで3・3倍。3番人気はトライアルの青葉賞を圧勝していたハイアーゲームで6・4倍。皐月賞馬ダイワメジャーが7・6倍の4番人気でつづいた。

     ダービーのゲートが開いた。

     マイネルマクロスが引っ張り、前半1000㍍通過が57秒6というハイペースになった。

     ところが、その後、流れが急変する。1000㍍から1200㍍までの1ハロンは11秒8と速いままだったのだが、向正面半ば過ぎから3コーナー入口までの1ハロンは12秒5、次の1ハロン、つまり3コーナーは13秒0まで遅くなった。そして、3、4コーナー中間の勝負どころからの1ハロンで12秒5、次が11秒5とペースアップして直線に入る、緩急の激しい「乱ペース」になった。

     道中3番手につけていたコスモバルクが、その流れに惑わされるように動き出し、4コーナーで先頭に立った。

     5、6馬身後ろにいたキングカメハメハは、外から一気に進出してきたハイアーゲームに被せられないよう自らも動き、直線入口でコスモバルクに並びかけた。そのとき、外に膨れてきたコスモバルクに押し出されるようになりながらも加速をつづけ、ラスト300㍍あたりで先頭に立った。

     ハイアーゲームを競り落とし、急襲してきた2着のハーツクライに1馬身半差をつけてフィニッシュ。2分23秒3のダービーレコードで、史上初の「変則二冠」制覇を達成した。
    「ぜんぜんいいレースではなかった。強引に行って、馬の力だけで勝たせてもらいました」
     と安藤騎手は振り返った。

     安心して乗ることができ、追えば追うだけ、どこまででも伸びて行く馬だったという。

     相手が強くなればなるほど、キングカメハメハ自身も、より強い競馬をした。

     それでも、前走のNHKマイルC同様、直線で手前を左に戻して走るシーンがあったりと、完璧な内容だったわけではない。

     競走馬としてまだまだ未完成なまま「競馬の祭典」を圧勝したのだから恐れ入る。マイルでも、チャンピオンディスタンスでもレコードを出した勝ちっぷりは、松田調教師が望む、種牡馬としての価値をさらに高めるものだった。

     松田調教師は素質のある管理馬すべてに「変則二冠」のローテを歩ませるわけではない。06年のフサイチリシャールは皐月賞5着、NHKマイルC6着、日本ダービー8着というローテだったが、07年のフサイチホウオーは皐月賞3着から日本ダービーに直行し、7着となっている。なお、08年、昆貢厩舎のディープスカイが史上2頭目の「変則二冠馬」となった。

    14年ぶりに日本ダービーのレースレコードを更新して制覇。このレコードは11年後、息子のドゥラメンテによって塗り替えられる©Photostud

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    ©T.Murata

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