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出走馬の様子
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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    オーナーの"思い"がもととなり
    人の縁もあって名馬が誕生した

    菊花賞の口取り。前列、向かって右から3人目が小林英一オーナー©H.Ozawa

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     2009年3月6日、北海道の出口牧場(日高町)でゴールドシップは生まれた。父ステイゴールド、母ポイントフラッグ。その母系に、オーナーの小林英一氏は、かねてより着目していたという。

     かつて野平祐二騎手を背に、目の前で華麗な走りを見せた牝馬がいた。スイートフラッグと言った。同じ系統の馬を持ちたい。そう考え、探していたところに、のちにゴールドシップの祖母となるパストラリズムを紹介されたのである。

     無論、すぐさま手に入れた。実はこれが初めての競走馬所有だった。パストラリズムの3代母はスイートフラッグの母に当たる。また、スイートフラッグの4代母とパストラリズムの6代母には、星旗という同じ馬名が見つかる。

     その星旗は、下総御料牧場が米国から輸入した基礎牝馬の1頭であった。昭和6~7年にかけてのことである。
    「何頭ものヨーロッパのたいへんな名血の力を借りて、星旗の系統は続いてきました。そんな貴重な流れがアメリカを経て日本に入ってきたわけです。過去に注ぎ込まれた名血のひとつひとつは、少しの辛抱は必要ですけども、10年20年経つうちにどこかでポッと花開くものなんですよ。そこに競馬のロマンがあると思うんです。星旗の系統からは必ずすごい馬が飛び出すだろうと思っていました」

     以前の取材で小林オーナーから聞いた言葉である。

     1990年にデビューしたパストラリズムは19戦2勝の戦績と共に引退し、出口牧場で繁殖入りした。迎えた98年、メジロマックイーンを配合相手に、第5仔のポイントフラッグが生まれたのだった。

     と、ここで突然、主人公が口を開いた。
    「婆ちゃんのパストラリズムはな、静内の岡田牧場で生まれた。岡田牧場と出口牧場は縁戚関係にあるらしいわ。だから婆ちゃんは出口牧場に預けられたんや。

     母ちゃんも同じく、引退後は出口牧場で繁殖生活に入った。ステイゴールドを配合するって決めたんは場主の出口俊一さんやったで。でかい子どもを生み続けた母ちゃんに、小柄なタネ馬を付けて、子供が大きくなり過ぎんように、母体にも負担が掛からんように、と考えてくれはったんや。その頃“黄金配合”なんて言葉はまだなかったしな。父ちゃんの産駒には小さな馬が多いけども、母ちゃんのおかげでオレは馬格に恵まれた。父ちゃんからは高い競走能力を受け継げた。ありがたい配合やと思うしかないなァ。

     小林オーナーと出口牧場との付き合いも、婆ちゃんの預託が縁で始まったそうやで。以来およそ25年間、ええ関係が途切れず続いてるのは素晴らしいやろ? オーナーも出口さんも優しいし、理解があるからやろな。実はな、オレがタネ馬になってからも、出口牧場さんにはお世話になり続けてるんやわ。今年は出口さんとこで、オレの子供が4頭も生まれたんやで。どんな競走馬になるのか、そらもう今から楽しみでならへんわ」

     少し誇らしげな、少し嬉しそうな表情を、言葉を続けながらゴールドシップは浮かべた。

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