story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 59
レコード駆けの弾丸シュート
サッカーボーイの底知れぬ魅力
2021年1月号掲載
弱点を抱えながらのクラシック
そして反撃の夏
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サッカーボーイは、社台ファーム白老(現・社台コーポレーション白老ファーム)で生まれた。
父ディクタス、母ダイナサッシュ(父ノーザンテースト)という血統だが、リーディングサイヤーに君臨するノーザンテーストが、母の父としてどんな仔を出してくるのか。そして、ノーザンテースト牝馬との交配を念頭にフランスから輸入されたディクタスはどうか。牧場としても大きな期待のかかる血統だ。
牧場時代のサッカーボーイは、やんちゃなエピソードに事欠かない馬だった。後脚2本で立ち上がって歩いたとか、牧柵を越えて脱走を図ったという類の話だが、いずれも気性の激しさだけでなく、彼の並外れた運動能力、脚力を窺わせるものだ。
実際、育成段階では早くも非凡なところを見せていた。育成を担当した社台ファーム空港(現・ノーザンファーム空港)場長の大沢俊一をして、
「長年育成の仕事をしてきたが、乗っていてその大物感に背中がぞくぞくしてきたのは、サッカーボーイが初めて」
と言わしめるほどだった。牧場の期待が生半なものでなかったことが窺える言葉だ。
しかしこの強靱な脚力は、諸刃の剣でもあった。
生まれつき、あまり蹄の丈夫でなかったサッカーボーイは、常に裂蹄に悩まされていた。
そして迎えた春のクラシックシーズンでも、その蹄はサッカーボーイを苦しませ続けることになる。
3歳緒戦の弥生賞(GⅡ)は逃げるサクラチヨノオーを捕まえきれずに3着。しかもこのレースのあとには、蹄の状態がさらに悪化して飛節炎を発症し、皐月賞断念を余儀なくされてしまう。
なんとかダービーには間に合わせようと出走したNHK杯(GⅡ)でも、急ごしらえの感は拭えず、4着に敗れる。
それでも、この馬らしくないレースを続けて見せられながらなお、ファンはダービーでサッカーボーイを1番人気に支持した。
内山正博に替わって前走からサッカーボーイの手綱を取ることになった河内洋は、そのことを知ると「お客さんも無茶をしよる」と思ったというが、まったくそのとおりである。
しかもサッカーボーイが引いた枠は24頭立ての22番だ。レース前半は後方に待機する競馬の多いサッカーボーイは、終始大外を回されることになるだろう。
そんなことは重々わかっていながら、それでも期待せずにいられない。それがサッカーボーイだった。
しかし、サッカーボーイの着順は、バテて下がってきた馬を交わしただけの15着。直線でまったく伸びてこないサッカーボーイの姿は、初めてだった。
河内が敗因に距離をあげたこともあり、もしかするとただの早熟な馬だったのか、あるいはマイルまでの馬だったのか。そんな評価も出てきてしまう、サッカーボーイのクラシックだった。
そんなサッカーボーイがダービー後に休養に入らず中日スポーツ賞4歳S(GⅢ)に出走してきたのは意外だったが、さらに意外なことには、このレースに皐月賞馬ヤエノムテキが参戦してきたのである。
脚部不安で出走さえ叶わなかった皐月賞のリベンジを果たす機会が、あちらからやってきた感じだろうか。
レースでは直線抜け出しを図るヤエノムテキに、後方からサッカーボーイが襲いかかり、皐月賞馬を軽々と一蹴した。着差の1/2馬身は、サッカーボーイの勝ったレースでは最小のものだったが、内容はまったくの完勝だった。
やはりこの馬は違うとあらためて感じさせたレースだったが、さらに圧巻だったのが、続けて出走した函館記念(GⅢ)である。
このレースは、シリウスシンボリとメリーナイスの2頭のダービー馬、そしてマックスビューティが参戦する、夏のローカルとは思えない超豪華メンバーによる一戦となった。
後方に控えたサッカーボーイは、3コーナー手前から動き始めると、4コーナーでは敢然と先頭に立つ。メリーナイスが必死に追いすがるが、その差はあっという間に開き、最後は流すようにして5馬身差のゴールに飛び込んだ。
勝ち時計1分57秒8は、2000㍍の日本レコード。まるでサッカーボーイ1頭だけが、別のレースをしているようだった。
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