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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    国内で新チャンピオンとなり
    狙うは香港スプリント制覇

    世界レベルの能力を見せつけたロードカナロア
    12年暮れ、日本馬にとって厚い壁と言われていた香港スプリントを制し、世界レベルの能力を見せつけた©Y.Maeda

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     12年12月。ロードカナロアは香港にいた。日本のチャンピオンスプリンターとして、香港スプリントに挑戦したのだ。
    「スピードに任せてグイグイ走るタイプではありません。だから充分に通用するという気持ちで現地に入りました」

     安田翔伍はそう言った。

     当時それを耳にした私は“楽観視し過ぎではないか?”と思った。いや、過去の歴史がそう思わせた。

     それまでにもスプリンターズSや高松宮記念を勝利した日本のチャンピオンスプリンターが、何頭も海を越え、シャティン競馬場に入っていた。しかし、レース後に笑顔をみせる関係者はいなかった。誰もがその圧倒的なスピードの前に世界の壁の高さを知り、表情をひきつらせた。

     たとえばスプリンターズSを制したダイタクヤマトは12着に敗れた。高松宮記念の覇者ショウナンカンプは10着だった。スプリンターズSを勝ったビリーヴは12着に敗れたが、帰国後には高松宮記念を勝ってみせた。同じく高松宮記念とスプリンターズSの両方を制したローレルゲレイロは2度、香港スプリントに挑み8着と13着。スプリンターズSで2着に4馬身差をつけて逃げ切ったカルストンライトオでさえも14着。他にもサニングデールやアドマイヤマックスなど、いずれ劣らぬ日本のスピード馬たちが見せ場すら作れず大敗を繰り返していた。

     日本馬が何度も跳ね返さている凱旋門賞でもエルコンドルパサーやナカヤマフェスタ、オルフェーヴルと、2着に善戦した馬はいる。

     それを考えると、香港スプリントは、“善戦するだけでも偉業”と言えるほど高い頂のレースだったのだ。
    「だいぶ気合が乗ってピリッとした感じです」

     香港入りしてからのロードカナロアについて、安田翔伍はそう言った。

     また、主戦の岩田は前日の土曜日に日本での騎乗を終えてから現地入り。香港に着いた彼から連絡が入ったのは深夜12時になろうかという時間帯。他の出走馬の特徴を知りたいと、当方の手持ちのレースビデオを見せて欲しいと連絡してきたのだ。

     かくして宿泊先のホテルのレストランで出走各馬のビデオをチェックしたのだが、この時、岩田の他にもう1人、ジョッキーがいた。カレンチャンで同じく香港スプリントに挑む池添謙一だ。いや、そもそも池添がライバル馬達をチェックするのは、彼が海外遠征した際、常に行うことで、実はこの時も池添の行動に岩田が乗っかったのだった。

     ここで話を1年前に戻す。

     1年前の香港スプリントにはカレンチャンが出走していた。先述したように、ことごとく日本のチャンピオンスプリンターが弾き返されているこのレースで、カレンチャンも同じように苦杯をなめた。

     しかし、当時、『優駿』に記したレース回顧で、私は次のように書いている。
    「カレンチャンが香港スプリントでみせたパフォーマンスは、勇気づけられるものがあった。今までのこのカテゴリーでの日本馬の実績を考えれば、確実に光が射した感がある」

     着順的にも日本馬としては過去最高の5着だった。そして、そのカレンチャンを破って新チャンピオンとなったのがロードカナロアなのだから『もしかしたら過去の例とは違うのでは……』という空気はたしかに漂っていた。

     そして、そんな空気を感じたのは何も我々日本人の間だけの話ではなかった。レース当日、香港のファンも3番人気という高い支持でロードカナロアを迎えたのだ。

     12月9日、運命のゲートが開いた。

     発走直後、外の馬に寄られ後ろからの競馬となってしまったカレンチャンとは対照的に、新王者は絶好のスタートを切った。そのまま好位で流れに乗ると、3コーナーでは岩田が抑えるのに苦労するほどの手応えで3番手に進出。外を回りながらもそのまま直線に入ると一完歩ごとに前との差を詰める。そして、ゴールまでまだ100㍍以上を残し、堂々と先頭に立った。
    「最後まで良い手応えでした」

     レース後、岩田がそう語るようにその脚色は衰えることなく、2着馬に2馬身半の差をつけて快勝。日本馬にとって前人未到の頂点に、ロードカナロアは見事に立ってみせたのである。

    ロードカナロア
    ©Y.Hatanaka

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