競馬場レースイメージ
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出走馬の様子
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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    牝馬としては17年ぶりの
    秋の天皇賞制覇を成し遂げた

     1番人気はディフェンディングチャンピオンのバブルガムフェロー。前年の天皇賞(秋)は3歳の身でありながら歴戦の古馬勢、すなわちマヤノトップガン、サクラローレル、マーベラスサンデーらを相手に優勝。この年も鳴尾記念を勝利し、宝塚記念こそ敗れたものの2着は確保。天皇賞の前哨戦として出走した毎日王冠も快勝して大一番に駒を進めてきていた。単勝は1・5倍の圧倒的人気。

     2番人気のエアグルーヴは4倍だから、やはり少なからず牝馬は厳しいと予想するファンが多かったのだろう。

     とはいえ3番人気のジェニュインはさらにはなされて9・6倍。牝馬は苦しいと予想しながらも、『エアグルーヴならやってくれるのではないか!?』と推察するファンも数多くいたと思えるオッズ差ではないだろうか……。

     レースは本格化前の3歳馬サイレンススズカが逃げる形で始まった。先頭から離れながらも3番手で先行したのがバブルガムフェロー。エアグルーヴはバブルガムフェローを視野に入れる位置でレースを進めた。

     前半1000㍍を58秒5で飛ばしながらも直線でまだ粘り腰をみせるサイレンススズカ。後の稀代の逃げ馬の外からバブルガムフェローが迫る。しかし、そのすぐ直後に忍び寄る影があった。

     エアグルーヴだ。
    「ゴーサインを出したらしっかり反応してくれたので、一気にかわしてしまおうと思いました」

     鞍上で武豊はそう思っていたという。
    「それで最後に止まったら仕方ないけど、きっとエアグルーヴなら我慢してくれると思っていました」

     エアグルーヴとバブルガムフェローの2頭が馬体を並べてサイレンススズカをかわす。すると、文字通り雌雄を決する激しい競り合いを繰り広げた2頭が3番手以下をグングンと突き放す。しかし、エアグルーヴの末脚が鈍ることはなかった。最後はバブルガムフェローをクビ差抑え、牝馬としては17年ぶりの秋の天皇賞制覇を成し遂げてみせた。

     その瞬間、武豊は感じたと言う。
    「凄い牝馬だなぁ……」

     伊藤も言う。
    「この路線では牝馬が勝っていない時代でしたからね。それは嬉しかったですよ」

     その衝撃を象徴するセリフを口にしたのは吉田勝已だ。
    「『こういうこともあり得るんだ!?』って思いましたね」

     日本のトップホースマンをしてもそう思えるくらい、牝馬がこのカテゴリーで勝つのは難しいと思えていた時代だったということだ。

     しかし、この瞬間、日本の競馬界は“ガチャリ”と音を立ててその方向性を変えたのである。

    ダイナカールから続くエアグルーヴの血は、日本の名牝系としていまも繁栄を誇っている©H.Imai/JRA

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