競馬場レースイメージ
競馬場イメージ
出走馬の様子
馬の横顔イメージ

story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    ジャックルマロワ賞で
    最終オッズは1・3倍

    1番人気に推された98年ジャックルマロワ賞で悲願の欧州G1制覇を成し遂げた©H.Imai/JRA

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     過熱する取材合戦をよそに、無事レースの当日を迎えたタイキシャトルは、早朝車でドーヴィルに移動。クイーンアンステークスを圧勝し、強敵と見られていたインティカブが故障して出走を回避し、風はタイキシャトルに吹いていた。

     ジャックルマロワ賞はマイルG1の中でも格が高い超有名レースである。優勝馬にはリュティエ、リファール、カラムーン、ノノアルコ、ケンメア、アイリッシュリバー、ミエスク、スピニングワールドなどが名を連ね、ブラッシンググルームでさえ2着に負けている。そのレースでタイキシャトルが堂々の1番人気になった。パドックにはシーキングザパールより強いという日本の馬を一目見ようと多くのファンが押し寄せている。日本からの応援も多い。しかし舞台裏ではシャトルが落鉄し、蹄鉄を打ち換える騒ぎが起こっていた。ちゃんと志賀装蹄師が控えていたからよかったが、「現地の装蹄師しかいなかったら、絶対打たせてないよ」と、後でこの話を聞いた岡部ジョッキーは笑った。

     タイキシャトルはその日、初めての場所で朝からイレこんでいたそうだが、レース直前にはしっかり仕事モードに入る。パドックの入口で、鈴なりの観客と他馬をギロリも見渡し「ヒヒヒヒーン」と雄たけびを上げた。金髪をなびかせ、背の高い栗毛馬のなんと頼もしかったことよ。そんなシャトルを見て、ジョッキーは「ああいつも通りだ」と安心する。単勝オッズは一時1・1倍まで下がり、最終的には1・3倍に落ち着いた。私は91年から海外競馬を取材し続けていたけれど、「負けたらどうしよう」というぜいたくな心配をしたのははじめてだった。

     出走馬は8頭。直線コースで、タイキシャトルは一番外ラチ側の1番枠からポンと出た。L・デットーリ騎手の乗るケープクロスが引っぱる。「初めてのコースだからもの珍しくて」(岡部)タイキシャトルは左を向いてスタンドを見ながら走っている。横を向いて走っているのに楽に2番手につけていられるほどペースは遅い。連日の晴天で乾いた馬場を嫌いこの日コースには散水されていたのだが、馬場を気にしている様子はまるでない。
    「直線なので、ハロン棒を見ながら走っていた。デットーリ騎手のケープクロスが行ってくれたのでいい形になった。早く抜け出してひとりになると気を抜いてしまうところがあるので、交わすのはゴール寸前でいいと思っていた」と岡部ジョッキーは言う。それだけを注意すれば大丈夫だという気持ちだったそうだ。

     徐々にペースが上がると、タイキシャトルも前を向いた。残り2ハロンで逃げていたケープクロスと馬体を併せ、追い比べが始まる。粘るケープクロス、内からM・キネーン騎手のアマングメン。敵もしぶとい。そのとき岡部ジョッキーが一発ムチを入れた。シャトルがグンと前に出る。ケープクロスを撃ち落とし、アマングメンをしのぐ。2分の1馬身差だったが完勝だ。

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