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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    距離が延びていよいよ本領発揮
    春の二冠馬を差し切って戴冠

    春季二冠のミホノブルボン(ピンクの勝負服)を従えGI初制覇を遂げた92年菊花賞©JRA

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     ユートピア牧場の支場的な存在である千葉県の大東牧場で夏を過ごしたライスシャワーは7月にトレセンへ帰厩。元来、レースを使われながら調子を上げる馬ながら、セントライト記念をレガシーワールドの2着とすると、続く京都新聞杯ではミホノブルボンとの差を1馬身半まで詰めて2着になった。上々のステップである。ひと夏越して逞しくなったいま、距離が延びて3000㍍になる菊花賞ならば、この差はさらに詰められるだろう。或いは逆転も…。的場は京都新聞杯のレース後、密かにその可能性を胸中に感じていた。

     しかし、菊花賞戦線の主役は断じてミホノブルボンだった。距離の延伸に血統的な不安を囁く声もあるにはあったが、それさえもシンボリルドルフ以来8年ぶりの三冠馬誕生を期待する圧倒的な声援がかき消した。

     そのことを菊花賞の単勝オッズが示している。1番人気のミホノブルボンは1・5倍。対する2番人気のライスシャワーは7・3倍。支持率の差はかくも歴然としていた。

     そこへ思わぬ風がライスシャワーに吹きはじめた。神戸新聞杯を制するなど、逃げて実績を残してきたキョウエイボーガンの陣営が菊花賞であらためて「逃げる」と宣言したのである。スプリングS以降はずっと逃げて勝ち続けてきたミホノブルボンであるがゆえ、ハナを叩かれると戸惑いを覚えることもあるだろう。そこに付け入る隙が生まれるのではないか。陣営は勝負への決意を新たにした。

     その読みは当たった。キョウエイボーガンが強引に先頭を奪うと、ミホノブルボンはどこか所在なげに2番手を追走。ライスシャワーはその2頭との距離を測りながら5番手あたりを進んだ。絶好の展開である。

     レースが動いたのは2周目の4コーナー手前。ミホノブルボンが前を交わしにかかるが、キョウエイボーガンが懸命に抵抗。先頭に立つまでにやや手間取ってしまった。そこへ一気に襲い掛かったのがライスシャワーだった。早めに動いて先頭に立ったぶん脚色が鈍ったミホノブルボンを鬼神のごとき末脚で蹴散らし、一気に突き抜けてゴール。1馬身1/4の差をつけての完勝である。

     三冠馬が誕生する瞬間を見ようと京都競馬場に詰め掛けた大観衆が一斉にため息を漏らした。

     ライスシャワーはこの日から、ヒーローを倒す「ヒール」(悪役)の役回りを担わされることになった。

    1993天皇賞(春)©H.Imai/JRA

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