競馬場レースイメージ
競馬場イメージ
出走馬の様子
馬の横顔イメージ

story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    岡部幸雄元ジョッキーが絶賛した
    ラストラン、2014年有馬記念

     自分の背中に乗っているのが誰であれ、その局面局面でジェンティルドンナは目の前の敵と全力で戦った。じつに8人のジョッキーと組み6人と共に勝利を挙げている。十八頭馬が走って勝つのはたった一頭なのに、その一番になってみせる。センスがよくて実力がある。手を抜かない。しかも力をひけらかさない。「牝馬なのに」終わってみれば、記録ずくめの戦績を残している。特に戦略的な勝ち方はしない。むしろ勝つまでそう目立たない。それがジェンティルドンナの一番恐ろしいところだろう。

     たとえば4歳時、2013年のジャパンカップ。宝塚記念で負け、凱旋門賞を目指すプランが白紙に戻された秋、日本のエース格オルフェーヴルとダービー馬キズナがそろって凱旋門賞を走りに行ってしまって、残留メンバーで走らなければならなかったこのジャパンカップの格を守りきったのがジェンティルドンナだった。日本の本命馬としての役割がちゃんとわかっているところがエラすぎる。

     たとえば5歳時、2014年のドバイシーマクラシック。直線でインコースをついたライアン・ムーア騎手は二度も前がふさがれ行き場をなくし、最後にジェンティルドンナをぐいっと外に持ち出した。その度重なるムチャ振りにも即座に反応したジェンティルドンナは、そこからまた伸びた。きれいな勝ち方ではなかったがゆえに、よけいに能力の高さを感じさせた一勝だった。

     圧巻は引退レースの有馬記念。ジャパンカップを1番人気で負け不完全燃焼では終われないと引退を延期。生涯初の中山コースに出てきたジェンティルドンナは生涯最低の4番人気でしかなかった。単勝は8・7倍。

     逃げたのは奇しくも3歳クラシックでライバルと言われたヴィルシーナだった。好位につけそつなくレースを運んだ戸崎圭太騎手が、一足先に抜け出したエピファネイアに並びかけたところで、誰もが思ったはずだ。もしかしてジェンティルドンナが勝つんじゃないか、と。ゴールドシップも来ていたし、エピファネイアも粘っていたけれど、並んだらジェンティルドンナだと私たちは身を持って知っているから。しまった、単勝買っておくんだった。何倍ついたんだっけ。引退レースってことはもう二度とジェンティルドンナの馬券は買えないのに。まいったなあ。勝つのかよお。

     直線でエピファネイアと並んでから、すごかった最後の10完歩。投げ出すように前脚を振り上げしっかりとかき込んで、ムッチリした馬体が縮み、それからゴムのように伸びる。お尻のエクボが現れては消える。絶対負けないと言わんばかりに全力で、まるで父ディープインパクトのように飛んでいる。またレジェンドだ。こんなかっこいい去り方があるだろうか、と私たちの胸は揺さぶられる。下した相手は、GⅠ馬のエピファネイア、ゴールドシップ、ジャスタウェイ、フェノーメノ、ヴィルシーナ、トーセンラーなどなど。

     テレビ中継で解説をしていた岡部幸雄元ジョッキーがゴールインした直後「すごいとしかいいようがない」と絶賛する。その言葉がみんなの思いを代弁していたんじゃないだろうか。ジェンティルドンナはこのとき、名牝ウオッカもブエナビスタも超えたのだ。そして名牝中の名牝、トップに躍り出した。

     実際にジェンティルドンナが残した記録を書き出してみよう。
    *牝馬三冠達成。父ディープインパクトも三冠馬。三冠馬から三冠馬が生まれたのは史上初。
    *3歳牝馬によるジャパンカップ制覇は史上初。
    *牝馬三冠馬による牡馬混合GⅠ勝利は史上初。
    *4歳でもジャパンカップ制覇。ジャパンカップ連覇は史上初。
    *5歳でドバイシーマクラシックを制覇。日本の牝馬がドバイでG1を勝ったのは史上初。
    *引退レースとなった有馬記念を勝ちGⅠ7勝。これはシンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ウオッカの芝GⅠ最多勝記録に並ぶもの。
    *東京・中山・京都・阪神の主要四競馬場全場でのGⅠ勝ちは牝馬史上初。
    *2012年、2014年と二度の年度代表馬に選ばれる。牝馬で二度の選出はウオッカと並ぶ最多。
    *獲得賞金額は13億2621万円+400万ドル(計17億2603万400円)でテイエムオペラオーに次ぐ史上2位。ちなみに種牡馬としても大成功を収めているディープインパクト産駒の中でも、ジェンティルドンナが最高の賞金額を誇っている。

    ©A.Takeda

    すべての写真を見る(6枚)

    03
    04