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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    2012年の凱旋門賞は、見ている誰もが直線半ばで勝利を確信したが、急激に斜行して失速してしまった 【H.Watanabe】

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    外国馬のいない有馬記念勝利で
    ワールドランキング第3位に

     昨今、海外の関係者やメディアの日本の競馬に対する関心は非常に高く、JRAのサイトやユーチューブなどを通じてレース映像を見ることも容易になった結果、私の周辺にも、ディープインパクトの熱烈なファンになった英国人記者や、ウオッカに惚れ込んだ米国の女性ジャーナリストなどが現れている。したがって、そういう下地は出来ていたのだが、それにしても、2012年3月18日の阪神大賞典が巻き起こした波紋の大きさには、正直に言って吃驚させられた。

    「おい、見たぞ」。「なんだ、あの馬は」。欧州、米国、香港、豪州など、競馬を通じて知り合いになった友人から、続々とメールが届いたのだ。

     どうやら今年はこの馬が凱旋門賞に挑むらしいと、世界的にも話題となっていた馬のシーズン初戦ゆえ、もとより注目をされていたようだ。3コーナーを回らず、外埒まで行って止まったかに見えた馬が、そこからまた走り出して2着に来た競馬は、世界の競馬サークルに大きな衝撃をもたらした。オルフェーヴルというのは、途轍もない馬だ!! 天皇賞・春における惨敗すら、この馬の「破格さ」の一環と捉えた欧州の関係者は、オルフェーヴルを、凱旋門賞制覇という悲願を成就させるべく日本が送り込んでくる「最強の刺客」と認識することになった。

     その後、壮行戦となった宝塚記念ではまともな競馬をして快勝。勇躍敵地に乗り込んだオルフェーヴルは、前哨戦のフォワ賞もしっかりと勝ち、決戦の時を迎えることになった。そして、18番という大外枠からの発走になったにもかかわらず、英ダービー馬キャメロットや仏ダービー馬サオノワらを退け、1番人気に推されることになった。  

     クリストフ・スミヨン騎乗のオルフェーヴルは、道中後方で競馬をし、直線に向くと馬場の大外を進出し、ほとんど馬なりのまま残り300㍍付近で先頭に立った。誰の目にも勝利は明らかで、世界の頂点に手がかかったかに見えた刹那、オルフェーヴルは急激に右側に斜行。抜け切っていたがゆえ他馬の進路を妨げはしなかったが、斜行は内埒に接触するまで止まらず、その隙に、オッズ41・5倍の12番人気という明らかに格下のソレミアに、寝首を掻かれることになった。

    「あれだけ楽に抜け出して、負けた馬を見たことがない」と評された摩訶不思議な敗戦で、力負けでは決してなかった。だが記録に残ったのは、2着という厳然たる結果だった。

     生涯最高の檜舞台だったからこそ「やんちゃ」をしてやろうと思ったのか、重馬場になった上に初めて背負う59・5㌔が応えてさすがのオルフェーヴルも苦しくなったのか、ゴール間際に見せた斜行の真の理由は、今もって謎である。

     その後、同馬を管理する池江泰寿調教師とその陣営が、雌伏の時を過ごしたことも、記さぬわけにはいくまい。人の思惑通りには走らぬオルフェーヴルを、いかにして従わせるか。あたかも馬場馬術の競技に使う馬を育てるがごとく、駐立、前進、後退を騎乗者の指示通りに行えるよう、根気よく矯正が行われた。

     だが、翌年の凱旋門賞も2着に終わった。この年もフォワ賞を制し、前年を上回る高い支持率で1番人気に推されたオルフェーヴルだったが、仏オークス、ヴェルメイユ賞の二冠を含めてここまで無敗で来ていた3歳牝馬のトレヴに圧倒されての2着と、実に普通の負け方をして、2度目の挑戦は終わった。

     この年の有馬記念には、CNNの取材クルーが来日。筆者は、そのアテンドと日本競馬の解説者としての役割を果たしつつの観戦となった。

    「徹夜組」や「開門ダッシュ」といった、外国人には珍しい光景の取材にも付き合うことになったが、ファンの熱気にはCNNのクルー以上に筆者が驚かされることになった。競馬会の古手の職員の方に聞いても、徹夜組の列がこれほど長くなったのは、近年ではなかったそうだ。彼らのお目当てはただ1つ、オルフェーヴルの「ラストラン」だった。

     2度目の凱旋門賞で、らしからぬ「普通っぽさ」を見せたオルフェーヴルだったが、やはり規格外の競走馬であったことを改めて示したのがこのレースだった。

     2着以下に8馬身という決定的な差をつける圧勝。レーティング129という、ディープインパクトを上回る評価を得て、ワールドランキング第3位に台頭した。有馬記念という外国馬の出走がないドメスティックなレースが、国際機関によってこれだけ高く評価されたことも、競馬新時代の到来を象徴する出来事であった。

     2014年春から、オルフェーヴルは社台スタリオンステーションで種牡馬生活に入った。

     スタッドイン直後、社台スタリオンの関係者から興味深い話を聞いたことがある。種馬場に到着してしばらく、オルフェーヴルは威勢が悪かったそうだ。それまでは、厩舎でも競馬場でもお山の大将だった彼が、新しいところに来てみたら周りは大層な貫録の大物ばかりで、どうにも勝手が違うぞと、心ならずも萎縮してしまったようだ、と。

     オルフェーヴルとは、かくも鋭敏な洞察力とナイーヴな心を持った馬だったのだと、改めて感じ入った次第である。

     レーティングでディープ越えを果たしたオルフェーヴルが、次に目指すのは、種牡馬としてもディープを越えることだ。それが果たされたとき、新時代の名称が「日本の時代」として定着することになるはずである。

    【Y.Hatanaka】

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    オルフェーヴル ORFEVRE

    2008年5月14日生 牡 栗毛

    ステイゴールド
    オリエンタルアート(父メジロマックイーン)
    馬主
    ㈲サンデーレーシング
    調教師
    池江泰寿(栗東)
    生産牧場
    ㈲社台コーポレーション白老ファーム(北海道・白老町)
    通算成績
    21戦12勝(うち海外4戦2勝)
    総収得賞金
    15億7621万3000円(うち海外2億3212万9000円)
    主な勝ち鞍
    11・13有馬記念(GⅠ)/12宝塚記念(GⅠ)/11菊花賞(GⅠ)/11日本ダービー(GⅠ)/11皐月賞(GⅠ)/12・13フォワ賞(仏GⅡ)/13大阪杯(GⅡ)/11神戸新聞杯(GⅡ)/11スプリングS(GⅡ)
    表彰歴等
    顕彰馬(15年選出)
    JRA賞受賞歴
    13最優秀4歳以上牡馬/12最優秀4歳以上牡馬/11年度代表馬、最優秀3歳牡馬

    2015年4月号掲載

    合田直弘 NAOHIRO GODA

    1959年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学経済学部を卒業後、テレビ東京に入社。「土曜競馬中継」などの制作を担当する。88年に退社し、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。
    海外競馬に精通し、「海外競馬完全読本」などの著書(共著)があるほか、海外競馬の解説も務める。

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