
優駿5月号 No.977
2025.04.25発売
優駿POGグランプリ2025-2026
連動企画
2歳馬特集
配合の額面どおり
ゆったりとした成長曲線
ヘデントールの母コルコバードも木村哲也厩舎の管理の下、現役時代は芝2000㍍超のレースで活躍。3歳時から実力の片鱗を見せていたが、4歳秋に2度目の500万下(東京・芝2400㍍)を勝利すると、年が明けて箱根特別(東京・芝2400㍍)、湾岸ステークス(中山・芝2200㍍)と3連勝でオープン入り。9月の丹頂ステークス(札幌・芝2600㍍)2着を挟んで、秋にはエリザベス女王杯(8着)にまで駒を進めた。
翌年の阪神大賞典では3番人気に推されるも10着に敗れ、これを最後に繁殖入り。2年目の配合相手としてルーラーシップが選ばれ、生まれたのがヘデントールだった。
ルーラーシップも、自身だけでなく、産駒にもどちらかといえばキセキやソウルラッシュのように晩成型の産駒も多い。配合の額面どおり見ればゆったりとした成長曲線を描きそうなもので、実際のここまでの過程もその通りのものとなった。
デビュー戦は2歳11月の東京芝2000㍍の新馬戦。2着に敗れはしたが、勝ち馬は後に皐月賞を無敗で制するジャスティンミラノ。以降は一貫して2000㍍以上を使われ続け、クラス編成直後の古馬混合2勝クラス町田特別(東京・芝2400㍍)、3勝クラスの日本海ステークス(新潟・芝2200㍍)と着実にステップアップして菊花賞に参戦。4頭が横一戦の攻防の中、最後のひと伸びを見せて2着となった。
イメージを決めつけず
馬に合わせた結果としての現状
ヘデントールの現在地を早い段階からイメージできていたのが、デビュー戦の手綱を取り、これまでの8戦中5戦に騎乗、4勝を挙げているクリストフ・ルメール騎手だ。デビュー戦のレース後にも「能力はあるけど、まだ緩いし、子供っぽい。それだけ伸びしろがあるし、2000㍍以上の距離がいいです」と話していた。改めて当時のことを尋ねると、「相手はジャスティンミラノ。全然馬の成長度合いも違ったし、それを考えればやはり能力が高かったと思います」と振り返る。
また、ルメール騎手自身が騎乗して、一番印象に残ったのは日本海ステークスだと話す。「3勝クラスでは力が違いました。それまでも、この馬はかなり強いと思ってましたが、緩さも抜けてきて、長くいい脚をこの相手でも使えるので、そう遠くないうちに重賞も取れるとは思いました。2000㍍でもいいですけど、もっと長い方が合いますね」
そのヘデントールとは、菊花賞では一転ライバルとなる。ルメール騎手はアーバンシックに騎乗、盤石の競馬でかつての相棒を退けた。もし、ルメール騎手がアーバンシックではなく、ヘデントールに乗っていたら、そんな意地悪な質問をしてみた。
「能力だけで言えば、ヘデントールとアーバンシックにそんなに差はなかったと思います。ただ、あの時点ではヘデントールもまだ成長途中でしたし、大レースでの経験も不足していました。だから、あの経験を経て、今ヘデントールが強いのはとても納得できます」
サウジアラビア遠征と同じ週だったためレースには騎乗しなかったが、ダイヤモンドSのレース内容には、驚きを隠せなかったと目を丸くする。
スタートはいつも通り少し遅れ気味だったが、鞍上に軽く促されると、スッと動いて5番手に取りついた。
「今までは緩いところがあって、スタートもよくなく、いい位置を取りに動いていくこともできなかったので、後ろでレースを進めていましたが、今回は楽そうでした。すごく、身体がしっかりしてきたんだと思います」
2周目の向正面では縦長になって、前からはかなり離れたが、3コーナーから徐々に進出すると、最後の直線入口では先頭に並ぶ勢いだった。
「それで、直線では“ピシューッ!”って全然伸びが違いましたね。菊花賞のときよりかなり成長してます」
ルメール騎手は天皇賞(春)騎乗の打診も受けていたが、この週はUAEダービーを共に制したアドマイヤデイトナとのコンビでケンタッキーダービーに参戦で不在。「身体がもうひとつ欲しい」と、困り顔で話す。それだけ期待できるということの表れだ。
一方で、母に続いて管理する木村調教師としては、「最初から、距離適性や成長度について、決めつけをしたわけではない」そう。だから、預かる当初からヘデントールの現状をイメージしていたかというと、「イメージも何もしてないです」と、あくまでヘデントール自身がレースで示した適性・成長に合わせた結果としての現状を強調する。
木村調教師といえば堅実なイメージが強いが、その一方で、常識や先入観にとらわれない面も持つ。イクイノックスを2歳の東京スポーツ杯からのぶっつけで皐月賞に挑ませたり、ジオグリフのドバイワールドカップ挑戦では直前に芝で調整するなどがその一例だ。 ヘデントールのレース選択においてもそれは同様。意外にも昨年のテーオーロイヤルが勝つまでは、その年のダイヤモンドS勝利馬による天皇賞(春)勝ち馬はいなかった。逆に言えば、天皇賞(春)を勝つことを考えるなら、阪神大賞典や日経賞から向かうのがいわばセオリー。しかし、それにとらわれず「どのレースからが天皇賞(春)でいい成績になるのかとかは、全く気にしなかった」と木村調教師は話す。
先入観を持たない最適解の積み重ねが、伝統の長距離GIに王手をかけた。ローテーションも血統も忘れ、ヘデントールの能力そのものを楽しみたい。
2025.04.25発売
優駿POGグランプリ2025-2026
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2歳馬特集