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第30回秋華賞  エンブロイダリー
PLAY BACK the Grade Ⅰ第50回 エリザベス女王杯

レガレイラ

Regaleira格の違いを見せつけて京都競馬場で行われた第50回エリザベス女王杯は、1番人気のレガレイラが豪快な差し脚を見せ、GⅠ3勝目を挙げた。昨年の雪辱を果たし、再びグランプリへと向かう予定だ。

大恵陽子 Yoko Oe

    発走前にはゲート練習
    一番強いと馬を信じた陣営

     強い馬が強い競馬をした。終わってみれば、そんなエリザベス女王杯だった。
     GⅠ馬2頭と、GⅠ初出走5頭を含む16頭立てで行われた牝馬限定GⅠは、戦前から前年の有馬記念勝ち馬レガレイラに耳目が集まっていた。
     3歳牝馬として64年ぶりに有馬記念制覇の偉業を果たしたのち、右第1指骨剥離骨折が判明した同馬は6月の宝塚記念で今年初戦を迎えた。久々の分か、他の要因か、4コーナーから伸びを欠いて11着に敗れたが、秋初戦のオールカマーを勝利。
     そうなれば、何と言ってもグランプリホースである。牝馬限定戦では一枚上手と見るファンは多い。一方で、単勝2・3倍に留まった一因はコース適性だろう。これまでGⅠ2勝はいずれも直線に急坂のある中山。平坦な京都では分が悪いのではとの見方や、不思議なほど関西遠征では5着、11着と成績が振るわない点も不安要素となっただろう。
     2番人気はリンクスティップ。きさらぎ賞2着、桜花賞3着、オークス5着と、直線の長いコースで末脚を伸ばしての好走が続いていた。加えて、1週前の3頭併せでの追い切りが迫力ある走り。クリスチャン・デムーロ騎手が乗って一杯に追ったとはいえ、動きの良さが光った。
     そしてGⅠ初出走のココナッツブラウンが3番人気に推された。牡馬相手に札幌記念2着が評価されたのだろう。函館で初勝利を挙げたように、北海道での滞在競馬が合うタイプ。テンションの高さに加え、馬運車に乗る段階から汗だくになってしまうため、栗東-京都間は1時間もかからないとはいえ、輸送を上手くクリアできるかがポイントだった。 パドックに出走馬たちが姿を見せると、ココナッツブラウンの馬体は汗で光り、つる首にして二人曳きされていたが、何とか我慢をできている状態。一方、レガレイラは堂々とした雰囲気で周回を重ねる。この姿を見て、木村哲也調教師は「前走より集中して歩けている」と感じ、馬主関係者に「いい状態です」と伝えた。リンクスティップも活気よく歩を進めた。
     発走前、通常ならゲート裏で各馬は輪乗りするところ、レガレイラはただ1頭、ゲート練習を行った。これは他馬でもたまに行われるもので、レース直前に枠入りや駐立の確認を目的としたもの。前走・オールカマーではゲート内でチャカつき、やや立ち遅れ気味のスタートとなったことから、木村調教師が戸崎圭太騎手に相談。「厩舎としての考えを伝えたところ、戸崎騎手はポジティブに捉えてくれました」と、実施に至ったのだった。しかし、この直前ゲート練習では前走同様、レガレイラは落ち着きがなかった
    「祈っていました」
     いざ本番でゲートに入ると、戸崎騎手はそんな心境だった。しかし、人間側の不安をよそに本番ではレガレイラは好スタートを決めた。「自分から出ていってくれて、状態の良さが繋がったかなと思います」。
     五分のスタートを切ると、馬場の悪い内に閉じ込められぬよう、外の各馬の動きを見ながら運んだ。
     レースを引っ張ったのは予想通りエリカエクスプレス。秋華賞では武豊騎手は事前に逃げることを決めていなかったが、返し馬からテンションが高く、スピードの違いで自然と逃げる形になった。そうなると200㍍延長の今回、距離不安がつきまとうが、「折り合い一つで中距離でもいける」というのが名手の感触。「走り自体は長い距離でもいいのかな」との言葉を週半ばの共同会見で残し、じわっと先手を取った。中団にはリンクスティップ、直後にレガレイラ、さらに半馬身後ろにココナッツブラウンという隊列になった。
     迎えた直線。内回りコースとの合流点を過ぎたあたりでエリカエクスプレスを交わしてパラディレーヌが先頭に躍り出た。馬群の外に持ち出されたレガレイラも、前のリンクスティップを交わして先頭へと迫る。11月の京都開催らしく各馬の長い影が伸びる中、残り100㍍を切ったところでレガレイラがパラディレーヌを抜き去ると、先頭でゴールを駆け抜けた。
     グランプリホースが強い競馬でGⅠ制覇を果たした瞬間だった。
    「ホッとしました。1番人気でしたし、一番強いと信じて乗っていました」と戸崎騎手が言えば、木村調教師も安堵の表情。勝って当たり前の雰囲気があっても、競馬は何が起きるか分からないだけに、結果を残せた安心感が大きいのだろう。
     2着パラディレーヌは一度は先頭に躍り出ただけに岩田望来騎手はパトロールビデオを何度も見返した後、非常に悔しそうな表情で「結果だけが残念です」と話した。とはいえ、前走から中3週で秋華賞3着に続いての上位入着。秋2戦は「私の中では一番強い競馬をしたと思っています。ということは、疲れてもいる」と千田輝彦調教師は前走後は2週間、疲れを取って状態を見た上で出走に踏み切った経緯もある。まだ3歳という点からもさらなる活躍が期待できるだろう。
     3着に9番人気ライラック。初コンビを組んだ藤岡佑介騎手は事前に主戦の石川裕紀人騎手から連絡をもらい、折り合いに気を配った。「初めて乗っても状態がいいんだろうなと分かるくらい、雰囲気が良かったです」と、好走を引き寄せた。
     リンクスティップも直線で脚を伸ばし4着、ココナッツブラウンは5着で「向正面で接触や他馬からのプレッシャーがあり力んだことが、最後の伸びを欠いたことに繋がったかもしれません」と上村洋行調教師は肩を落とした。

       
    偉業を果たすべく臨む
    70回目のグランプリ

     勝ったレガレイラはレイを掛けられ、口取り撮影の間も堂々とした雰囲気を見せた。
    「レース後も落ち着いていて息が乱れず、器の大きい馬だと改めて感心しました。昨年の有馬記念では歴史に名を刻んだと思いますが、今日も改めて素晴らしい馬と感じ、その調教を毎日見られることは幸せです」
     感慨に浸るように木村調教師はそう話した。
     しかし、この1年は楽な日々ではなかった。昨年の同レースは内から伸びきれず5着。そこで走り切らなかった分、余力を持って次走の有馬記念を迎えられた側面も考えられるが、陣営にとっては「人気に支持していただいたのに、多くのファンをがっかりさせてしまった」と敗戦を重く受け止めた。「残念ながら、僕の仕事は失敗からでしか前に進めません」
     そう話す木村調教師は、昨年のエリザベス女王杯後は調教も見直した。戸崎騎手はその過程をこう感じていた。「怪我で休んでからあまり成績が良くなかったですが、馬自身もスタッフも立て直してきて、頭が下がる思いです。エリザベス女王杯に向けては毎週、厩舎から状態が良くなっていると聞いていました。精神面はその日によって変わるのでまだ牝馬らしさがあるかなと思いますが、体はしっかりしてきてレースで乗りやすいのが強み。成長していて、まだまだ楽しみです」
     成長については木村調教師も「馬体に幅が出て、お尻のボリュームも増し、全体的にフィジカルがお姉さんになって逞しくなりました」と評する。
     そうなれば、期待がかかるのは暮れの有馬記念連覇。同レースは69年の歴史の中で連覇した馬は4頭いるものの、牝馬は未だかつていない。さらなる偉業に期待がかかる。

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