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ミュージアムマイル
PLAY BACK the Grade Ⅰ第85回皐月賞 SATSUKI SHOミュージアムマイルMuseum Mile「一強」を揺るがしたキレ味クロワデュノールが圧倒的な支持を受けた三冠初戦。
無敗の2歳王者の走りに関心が集まるなか、ミュージアムマイルがレースレコードで栄冠を手にした。

横手 礼一 Reiichi Yokote

    一度はペースが落ち着き
    1000㍍は59秒3で通過

     昨年から今年にかけて、牡馬クラシック戦線で断然の主役を務めたのがクロワデュノールだ。3戦3勝、無敗のJRA賞最優秀2歳牡馬。皐月賞では最終的に単勝1・5倍の支持を集めた。
     じつは、皐月賞で単勝1倍台の1番人気は珍しい。前回が2019年のサートゥルナーリアで、その前が2009年のロジユニヴァースだった。これはおそらく、皐月賞に至る有力馬のステップが多様化したため、事前の戦力比較が難しくなったことが影響している。ちなみに日本ダービーでは、単勝1倍台の1番人気は過去10年で5頭いて、むしろ普通になっている。
     だが今年は、きさらぎ賞を勝ったサトノシャイニングは東京スポーツ杯2歳Sでクロワデュノールに敗れていたし、共同通信杯のマスカレードボール、弥生賞ディープインパクト記念のファウストラーゼン、スプリングSのピコチャンブラック、若葉Sのジョバンニは、前走でクロワデュノールが完勝したホープフルSに出走していた。主要な前哨戦を制したのは、いずれもクロワデュノールが負かした馬だったわけで、人気が集中するのも当然だ。一強の構図は揺るぎないものと思われた。
     土曜の中山競馬場は季節外れの暑さに見舞われたが、日曜は終日薄曇りで南寄りの風が強めに吹いた。過ごしやすい陽気になったのでファンにとってありがたい風だったが、レースにも少なからぬ影響を与えた。
     南寄りの風はスタンド前の直線では追い風、向正面では向かい風になる。強風に逆らってスピードを上げようとすると消耗するので、中盤では動きにくい。必然的にペースが落ち着いて、上がりが速いレースが多くなった。
     またレース当週には仮柵が移動して、一番外側のCコースが使用された。皐月賞がCコースで行われるのは史上初めてのことだ。前週までに傷んだ部分がカバーされて、芝コースは絶好と言える状態。先行した馬がなかなか止まらず、速い時計での決着が続出した。
     当然、騎手も「前めに付けよう」という意識が強かったはず。コーナー4つの皐月賞であればなおさらだ。
     南風のCコースで、全体も上がりも速い馬場。皐月賞はよく「速い馬が勝つ」と言われるが、例年以上に「速さ」が求められる舞台設定だったと思う。
     逃げや早め先頭で前走を勝った馬が何頭かいたが、ピコチャンブラックが主張すると他は競るところまで行かず、ハナ争いはすんなり決着した。2番手にジュタ、ジーティーアダマンが3番手。すぐその外の4番手に付けたのが大本命のクロワデュノールだった。包まれずにいつでも動けるポジションを確保。序盤の運びは万全だった。
     2番人気サトノシャイニングは外枠スタートで前に馬を置けず、外から力み気味に前を追いかける。3番人気は、ディープインパクト記念4着から巻き返しを図るミュージアムマイル。初騎乗のJ・モレイラ騎手は前を深追いすることなく中団に落ち着いた。
     4番人気のマスカレードボールはここまで4戦3勝。唯一の敗戦がホープフルSの11着で、中山でコーナー4つの忙しい競馬が不安視されていた。初騎乗の横山武史騎手は弱点を克服すべく、ゲートから積極的に仕掛けていった。1コーナーへの進入時には内のエリキングとの進路争いで何度も接触。横山騎手が制裁対象になるほどの激しいバトルを繰り広げたが、結局前には入れずポジションを下げた。
     向正面に入ると、後方にいたファウストラーゼンが仕掛けた。ホープフルSやディープインパクト記念でも見せた向正面捲りに「待ってました」とばかりに場内が沸いた。
     一気に先頭まで進出して捲りが決まったかと思われたが、ピコチャンブラックも譲らず応戦。両馬が横並びの態勢で隊列を引っ張って3コーナーに向かっていく。
     一度はペースが落ち着いたため1000㍍は59秒3で通過したが、以降の5ハロンはすべて11秒台を計時。レース後半は息を入れる暇がないまま進んだ。
     ファウストラーゼンの進出が合図となって各馬の動きが慌ただしくなる。その過程でトラブルも発生した。
     まず、ニシノエージェントが外に開いた動きが大きくなって、隣のジョバンニに接触。さらにミュージアムマイル、サトノシャイニングと、接触が玉突き的に波及していった。
     また、ファウストラーゼンを追いかけて動いたアロヒアリイが急に内に寄せたため、ドラゴンブースト、そしてクロワデュノールの進路が狭くなった。
     クロワデュノールの北村友一騎手は、捲りが一段落したのを見計らって、ちょうど外に出そうとしたタイミングだった。リズムも崩したし、内に押し込められて減速を強いられ、番手も下げざるを得なかった。
     だが北村騎手はすぐに切り替えて、あらためて外に出してスパートを開始した。3~4コーナーで外を回りながら前との距離を縮めていく。王者の進撃に場内の歓声が高まった。

    スピードの違いで
    一気にライバルを交わし去る

     直線に向くところで、ピコチャンブラックを振り切ってファウストラーゼンが先頭に立った。粘り込みを図るファウストラーゼンに坂の上りでクロワデュノールが並びかける。競り落として抜け出して、あとはゴールに飛び込むだけ。ホープフルS同様の勝ちパターンに持ち込んで、一冠獲得は目前と思われたところに、外から襲いかかったのがミュージアムマイルだった。
     4コーナーで遅い馬の後ろに入ったためワンテンポ仕掛けが遅れたが、スピードに乗せながら外に持ち出すと、直線ではクロワデュノールを目標に一直線。坂を上がったところでモレイラ騎手が一度手綱を取り落とす場面もあったが、スピードが違ったので問題なかった。一気にライバルを交わし去ると、さらに差を開いてゴールに入った。
     父は2016年の皐月賞で5着(4位入線)に敗れたリオンディーズ。あの年も強い南風が吹いていた。孝行息子がリベンジに成功して、父が果たせなかったクラシック制覇を成し遂げた。
     朝日杯フューチュリティS2着時にも見せた絶品のキレ味の前に、クロワデュノールはなす術がなかった。さらに、勝ち馬の後を追って、後方にいたマスカレードボールも一気に接近。速い上がりを使える馬が直線で台頭する展開になった。差し馬の猛攻の前に、クロワデュノールは2着を死守するのが精一杯だった。
     モレイラ騎手は前週のエンブロイダリーに続くクラシック制覇で、両馬とも3番人気での勝利だった。冴え渡る手綱捌きにファンはまたまた感嘆した。
     クロワデュノールはロングスパートが勝ちパターンだから、出鼻を挫かれるような向正面の不利が大きく響いた。マスカレードボールは中山克服とはならなかったが、最後まで脚を使っての3着は次走に向けて価値が大きい。
     ジョバンニは向正面での接触の他に、直線入口でも勝ち馬に外へ弾かれる場面があった。摩擦の多い競馬になりながら最後までファイトしての4着は立派だ。サトノシャイニングは外枠だったために前に壁を作れず、力み気味に外を回ったのが響いて最後の最後で伸びを欠いた。
     決着タイムは1分57秒0。去年をコンマ1秒上回ってレースレコードを更新した。
     去年はメイショウタバルが離して逃げる展開で、1000㍍通過が57秒5というハイペースだった。それに比べると今年はペースが落ち着いて隊列はバラけず、直線入口でも馬群がひとかたまりという状態だった。そんな展開からのレースレコードだから今年は去年とひと味違う。レース全体の上がりが速く一般に着差が付きにくいと言われる状況だったが、それでも抜け出してきた上位5頭の強さは本物だ。
     序盤はじっくり進めて直線で速い上がりを繰り出して競い合う。今年の皐月賞の展開は、例年の日本ダービーと共通する部分が多かった。そういう意味では、次へと繋がる皐月賞だったと思う。優先出走権が与えられた上位5頭の府中での再戦が楽しみだ。

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