
優駿10月号 No.982
2025.09.25発売
秋GⅠ開幕直前特集
有力馬たちの青写真
有力馬たちの青写真
10.19 秋華賞 京都 芝2000㍍カムニャック
Kamunyak秘めるポテンシャルを信じて
トライアルを制し出走へと漕ぎ着けたオークスで見事に勝利。
同世代牝馬の中で、真の頂点に君臨すべく、樫の女王が二冠達成へと挑む。
猛暑の中京で快勝
期待膨らむ走りを見せるも…
滝のように流れる汗を拭いながら、栗東トレーニング・センター西寄りにある友道康夫厩舎に向かった。今夏の平均気温は平年より約2℃、上昇したという。だが、昨年だって暑かった。2024年8月11日の名古屋市内の最高気温は38℃超え。ジリジリと太陽が照り付ける中、友道厩舎期待の2歳牝馬・カムニャックはデビューを迎えた。
1歳時にセレクトセールで金子真人オーナーに落札され、その年の秋に預託が決まった頃から「オークスを目指しましょう」と友道調教師はオーナーに進言していた。だから、デビュー戦に8月の中京芝2000㍍を選んだ。
高い素質を感じる馬ほど、先を見据えて広いコースで走らせたいと思うのはトップトレーナーの多くに共通する考え。それに当てはまるのが中京で、さらに、早くから臨戦態勢が整っていたこともこの時期デビューの一因だった。4月には社台ファームから「首の使い方が良くて、乗り手とのコンタクトも良好」と報告を受け、5月末にゲート試験に合格。一旦山元トレーニングセンターに休養に出された後も順調に過ごした。
レースは前半1000㍍1分4秒1の超スローペース。後方から2番手で運んだカムニャックは、直線で外に出されると、瞬発力勝負の一戦を見事に差し切って勝った。ラスト2ハロンのレースラップは両区間ともに10秒9。カムニャック自身も上がり3ハロン33秒6の末脚を繰り出した。
「直線はステッキを入れずにこの内容。桜花賞は1600㍍へ距離短縮になるけど、直線が長いから楽しみかも、と思いました」
友道調教師がそう期待を抱けば、金子オーナーからはこんな言葉が飛び出した。
「ダービーに登録しないの?」
夢は膨らむばかりだった。
ところが、歯車が徐々に狂い始めた。レース直後は特段感じられなかったが、社台ファーム鈴鹿に休養に出すと、どっと疲れが出た。暑さも一因だったかもしれない、と友道調教師は振り返る。
状況を好転させた
過去の教訓と取り組み
新馬戦から2カ月後のアルテミスステークスに向けて調教を始めても、走りのバランスが良くなかった。
それでも、初勝利の強さを目の当たりにしただけに、地力で何とか勝てるのでは、と希望を抱いた。
ところが、先行集団から伸びあぐねて6着。勝ったブラウンラチェットからは約2馬身の差だが、「甘かった」とバッサリ。大きく膨らんだ期待はしぼみはじめ、阪神ジュベナイルフィリーズはパスすることになった。
それでも、秘めるポテンシャルとそれに伴う生命力は一級品。寒さが増すのに比例して状態も良化していった。今度こそ「これなら」と手応えを掴んで2月にエルフィンステークスに臨んだが、4着に敗れてしまう。この結果を見て桜花賞もスッパリと諦めた。
「中途半端な状態で桜花賞に出走していたら、ダメージが残ったと思います。オークスに向けては、ここで無理せずに間隔を空けられたこともよかったです」
無理をしてもいいことはない、というのは友道調教師の教訓の一つ。根底には、厩舎初のGⅠ制覇をもたらしたアドマイヤジュピタとの苦い記憶がある。2歳年末に初勝利を挙げ、クラシック路線に乗せようと年明けは月1回のペースで3走したところ、2勝目を挙げた喜びも束の間、骨折が判明。春のクラシックはおろか、4歳夏まで長期休養を余儀なくされた。だから、いまでも出走回数は馬房数を考えるとさほど多くない。馬に過度な負担を強いないよう意識しているからだ。
心身のバランスを崩していたカムニャックを立て直すため、担当の花田秀雄調教助手は調教での馬場入り時に落ち着きを保てるよう工夫し、時間をたっぷりかけて乗った。
そうした日々が徐々に噛み合い始めたのがフローラステークスだった。初コンビを組むアンドレアシュ・シュタルケ騎手は単走だった2週前追い切りこそ「ベリーハード」と前進気勢旺盛な走りを振り返ったが、1週前追い切りでは馬の後ろで折り合いをつけ、いい内容で終えられた。その好感触はそのままレースにも反映され、勝利。1歳秋から目標に掲げていたオークスに滑り込みで間に合った。そして、既知の通り第86代優駿牝馬に輝いた。
オークス馬となった今年は、8月上旬に栗東トレセンに帰厩後も暑さに負けることなく調教を積む。父ブラックタイド、母の父サクラバクシンオーという同じ血統構成を持つキタサンブラックは、3歳秋や古馬になってグンと成長したタイミングがあった。カムニャックもまた「体がひと回りくらい大きくなって帰ってきました。走る姿からはパワーアップしたと感じます」と友道調教師は話す。
ローズステークスに向けた2週前追い切りでは3戦ぶりにコンビを組む川田将雅騎手が騎乗。折り合いがつき、鞍上からは「安心しました。新馬戦くらいのデキに戻っています」と報告を受けた。
「2000㍍くらいで走らせたい馬。来年は牡馬と一緒に走れる馬だと思います。だから、ここは負けられないですし、先に繋がる競馬をしてほしいと思います」
数々の名馬を送り出したトレーナーの夢は再び膨らみはじめた。
2025.09.25発売
秋GⅠ開幕直前特集
有力馬たちの青写真